大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和63年(行ウ)43号 判決 1990年6月29日

名古屋市緑区大高町下塩田四八番地一

原告

エス・テイ・エンジニアリング 株式会社

右代表者代表取締役

佐藤武

右訴訟代理人弁護士

三浦和人

名古屋市熱田区花表町七丁目一七番地

被告

熱田税務署長

川村宣夫

右指定代理人

天野登喜治

今野高明

仲田勇

間瀬暢宏

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(一)  主位的請求

被告が昭和六二年三月二四日付でした原告の同五八年四月一日から同五九年三月三一日まで、同年四月一日から同六〇年三月三一日まで及び同年四月一日から同六一年三月三一日までの各事業年度の法人税についてした各更正及び右各更正に伴う重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定(以下合わせて「本件各処分」という。)をいずれも取り消す。

(二)  予備的請求

被告が昭和六二年三月二四日付でした本件各処分がいずれも無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1(一)  請求の趣旨1の主位的請求について

本件訴えをいずれも却下する。

(二)  同予備的請求について

原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四五年八月に設立された精密自動旋盤用のカム、工作機械等の製造販売を営む会社である。

2  原告は、昭和五八年四月一日から同五九年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五八事業年度」という。)につき所得金額金一〇五九万〇〇八二円、法人税額金三四〇万四〇四〇円を、同年四月一日から同六〇年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五九事業年度」という。)につき所得金額金二四四二万四一八五円、法人税額金九四八万七三一二円を、更に、同年四月一日から同六一年三月三一日までの事業年度(以下「昭和六〇事業年度」という。)につき所得金額金二五〇七万九八二五円、法人税額金九六六万五八〇七円を各期限内に申告し、かつ、納税を完了した。

3  ところが、被告は、原告に対し、昭和六二年三月二四日付で本件各処分をし、申告に係る法人税額に加えて次のとおり課税した。

(一) 昭和五八事業年度につき、

本税 金二三一万七三〇〇円

加算税 金四六万円

(二) 昭和五九事業年度につき、

本税 金一二五万四五〇〇円

加算税 金二一万二〇〇〇円

(三) 昭和六〇事業年度につき、

本税 金八九九万九〇〇〇円

加算税 金一六四万四〇〇〇円

4  原告は、本件各処分によつて課税された金額を全額納付済みである。

5  しかしながら、本件各処分は、次のとおり、いずれも違法な処分であり、取消し又は無効の事由が存在する。

(一) 本件各処分に先立つて行われた徴収職員の質問検査は、原告に過少申告の疑いが客観的に存在しないにもかかわらず、面白半分にされた違法な調査であつた。

(二) 本件各処分は、原告に申告に係る所得以外の所得がないにもかかわらず、原告代表者が前項の違法な調査に対して再三正当な抗議をしたことに対する報復としてされたものであり、理由のない違法な処分である。

6  原告は、本件各処分を不服として、被告に対して昭和六二年五月二二日付で異議申立てをしたが、申立後三か月を経過しても異議決定がされないため、同六三年一一月二日付で国税不服審判所長に対して審査請求(以下「本件審査請求」という。)をしたが、国税不服審判所長は、原告に対し、被告は右異議決定をして異議決定書謄本(以下「本件謄本」という。)を原告に送達済みであり、本件審査請求は審査請求期間を経過した後にされた不適法なものであるとして、同月一八日付で本件審査請求を却下する旨の裁決をした。

7  よつて、原告は、主位的に本件各処分の取消しを求め、予備的に本件各処分の無効確認を求める。

二  被告の本案前の主張

1  被告は、本件各処分について原告が昭和六二年五月二二日付でした異議申立てにつき、同年八月二二日付でこれを棄却する旨の決定をし、同日、原告に対して本件謄本を書留郵便で発送したが、同月二四日、郵便配達人が右書留郵便を原告の事務所に持参してこれを原告に送達しようとしたところ、原告が理由なくその受領を拒否したため、同年九月一日、改めて右謄本を普通郵便で原告に対して発送した。

2  原告が昭和六三年一一月二日に国税不服審判所長に対して本件審査請求をしたこと、国税不服審判所長が同年同月一八日に本件審査請求をいずれも期間経過後にされた不適法な請求であるとして却下する旨の各裁決をしたことは、原告主張のとおりである。

3  本件訴えは、国税に関する法律に基づき税務署長がした処分の取消しを求めるものであるから、国税通則法七五条、一一五条一項本文及び行政事件訴訟法八条一項ただし書の各規定により、異議申立てについての決定及び審査請求についての裁決を経た後でなければ提起することはできず、また、右決定及び裁決を経たというためには、当該異議申立て及び審査請求がいずれも適法にされていることが必要である。

原告は、国税通則法七七条二項の規定により、本件謄本の送達があつた日の翌日から起算して一か月以内に審査請求をしなければならないところ、前記1の事実によれば、原告は、昭和六二年八月二四日の時点で本件謄本を受領でき、ひいては異議決定がされたことを了知し得る状態にあつたことは明らかであるから、翌八月二五日から起算して一か月以内、すなわち、同年九月二四日までに審査請求をすべきであつた。また、仮に、そうでないとしても、被告は、原告に対し、同月一日、普通郵便で本件謄本を発送しているのであるから、国税通則法一二条二項の規定により、翌九月二日から起算して一か月以内、すなわち、同年一〇月二日までに審査請求をすべきであつた。

ところが、原告が本件審査請求をしたのは、右法定期間を一年以上経過した昭和六三年一一月二日であつたのであるから、本件審査請求は不適法であり、これによつて国税通則法一一五条に定める適法な審査請求の前置がされたということはできない。

4  よつて、本件各処分の取消しを求める本件訴えは、不適法なものとして却下されるべきである。

三  被告の本案前の主張に対する認否

1  被告の本案前の主張1の事実のうち、原告の異議申立ては認めるが、その余は否認する。原告は、右異議申立て後毎月一回以上異議決定がされたか否かを熱田税務署に電話で問い合わせていた程であり、本件謄本の受領を拒否したといつた事実は全くないし、被告主張の普通郵便を受領した事実もない。なお、被告主張の書留郵便(乙第一号証)はその宛名書部分の大きさからして代表取締役の佐藤武宛てであると考えられる形式になつているのであるから、原告代表者不在の場合、居合わせた社員が受領拒絶したとしても当然であつて、それは佐藤武の受領拒絶でも原告会社の受領拒絶でもない。

2  同2の事実は認める。

3  同3及び同4は争う。

四  予備的請求の請求原因に対する認否

請求原因4の事実は認める。同5の事実は否認し、主張は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらをここに引用する。

理由

一  主位的請求(取消請求)について

まず、本件各処分の取消しを求める訴えの適否について判断する。

1  行政事件訴訟法八条一項ただし書は、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、審査請求をしないで直ちに処分の取消しの訴えを提起することはできない旨規定しているところ、国税通則法一一五条一項柱書本文は、国税に関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴えは、審査請求をすることができる処分にあつては審査請求についての裁決を経た後でなければ提起することができない旨規定し、同法七五条三項及び同条一項一号は、税務署長のした処分について当該税務署長に対する異議申立てについての決定があつた場合に、当該異議申立てをした者が当該決定を経た後の処分になお不服があるときは、その者は、国税不服審判所長に対して審査請求をすることができる旨規定しているのであるから、税務署長のした本件各処分の取消しを求める訴えは、審査請求についての裁決を経た後でなければ提起することができないものである。

なお、右前置すべき審査請求は法律で定められた要件を充足した適法なものでなければならず、不適法な審査請求をしても審査請求前置の要件を充足したことにはならないことは明らかである。

2  本件各処分に係る審査請求は異議審理庁である被告から異議申立人である原告に異議決定書の謄本の送達があつた日の翌日から起算して一か月以内にしなければならないものである(国税通則法七七条二項、七五条三項、一項一号)ところ、本件各処分につき、原告が被告に対し、昭和六二年五月二二日に異議申立てをしたこと及び同六三年一一月二日に本件審査請求をしたことは当事者間に争いがないのであるから、右異議申立てに対する異議決定がされたか否か及び本件謄本の送達がいつされたのかが問題となる。以下、この点について判断する。

成立に争いのない乙第六号証の一ないし三、第七号証、第一〇号証ないし第二〇号証、官署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については証人橋爪巧証人の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証及び第二号証、同証人の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証及び第九号証、証人北島栄治の証言により真正に成立したものと認められる乙第四号証及び第八号証並びに証人橋爪巧及び同北島栄治の各証言によれば、次の事実を認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

すなわち、(1)被告は、本件各処分に対する原告の異議申立てをいずれも棄却する旨の各異議決定を昭和六二年八月二二日付で行い、原告に対し、同日、本件謄本を書留郵便で発送したが、郵便配達人は、同月二四日右書留郵便を原告に配達しようとしたところ、原告によりその受取りを拒絶されたので、同書留郵便を持ち帰り、右書留郵便は、同月二五日、被告に還付された。(2)そこで、被告は、原告に対し、同年九月一日、本件謄本を普通郵便で発送すると共に、本件謄本の名称、その送達を受けるべき者の氏名、宛先及び発送の年月日を確認するに足りる記録(国税通則法一二条三項参照)を作成して置いた。

ところで、国税通則法一二条二項及び一項は、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長が発する書類を通常の取扱いによる郵便によつて発送した場合には、その郵便物は通常到達すべきであつた時に送達があつたものと推定する旨規定しているのであるから、右認定事実によれば、国税に関する法律の規定に基づいて被告が発する書類である本件謄本は、それが昭和六二年九月一日に通常の取扱いによる郵便(郵便法五七条の規定により特殊取扱いとされる郵便(速達の取扱いによる郵便を除く。)以外のものをいうと解すべきであり、普通郵便はこれに含まれる。)によつて発送されたことにより、当該郵便が通常到達すべきであつた時に送達があつたものと推定される。

したがつて、右推定が覆されない限り、昭和六三年一一月二日にされた本件審査請求は、明らかに審査請求期間を経過した後にされたものであるといわざるを得ない。

3  右本件謄本の送達に関し、原告は、原告が本件謄本を普通郵便によつて受領した事実はない旨主張するので、この点について判断するに、証人橋爪巧の証言及び原告代表者尋問の結果によれば、次の事実を認めることができこの認定に反する証拠はない。すなわち、(1)昭和六二年九月一日に本件謄本を同封して原告宛てに発送された普通郵便は、その後熱田税務署に返戻されていないし、(2)原告代表者は、昭和六一年一一月に本件各処分に先立つて税務調査が行われるまでは、税務署から送られてくる書類等をすべて受け取つていたが、右調査について熱田税務署係官に抗議するなどしたことから、意味不明なものを受け取つて問題が起きてはいけないと考え、右調査終了から約一か月後に、原告宛ての郵便を受領する権限を有する原告会社総務課の従業員に対し、税務署から書留郵便が送られてきた場合には、原告代表者が社内にいるときは原告代表者が自ら受け取るが、原告代表者が社内にいないときは、これを受け取る必要がない旨を、また、税務署から送られてくる普通郵便については、総務課の発送係の従業員においてこれを開封し、返送するなり廃棄するなり当該従業員の判断で処置し、原告代表者のところへ持つてこないようにすべき旨を各指示していた。そして、(3)原告代表者の日常業務は主に対外関係と新規開発であり、原告代表者はほとんど社内にいなかつた。

右各認定事実によれば、本件謄本が普通郵便によつて原告に送達されたことの推定を覆す事実の存在を認めることはできず、かえつて、本件謄本の同封された普通郵便は、原告宛ての郵便を受領する権限を有する総務課の従業員によつて受領されたものであることが推認され、したがつて、本件審査請求は、審査請求期間を経過した後にされたものというべきである。

4  なお、前項で認定した事実に照らすと、原告は自己の責めに帰すべき事由によつて審査請求期間を徒過したものというべきであるから、原告が審査請求期間内に審査請求をしなかつたことについて、国税通則法七七条三項所定のやむを得ない理由の存在を認めることはできず、更に、行政事件訴訟法八条二項所定の裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起することができる場合に当たらないことも明らかである。

5  よつて、本件審査請求は不適法な審査請求であり、本件各処分の取消しを求める訴えは、適法な審査請求を前置していない不適法なものとして却下を免れない。

二  予備的請求(無効確認請求)について

行政事件訴訟法三六条によれば、行政処分の無効確認の訴えは、当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる旨規定しているところ、本件各処分により課税された金額の全額を原告が納付済みであることは当事者間に争いがないのであるから、原告は、本件各処分に続く処分(滞納処分)により損害を受けるおそれはなく、また、本件各処分の無効を前提とする既納税金の返還請求訴訟等の現在の法律関係に関する訴えによつてその目的を達し得るのであるから、本件訴えは、同条所定の要件を満たさない不適法な訴えであるというべきである。

三  結論

よつて、本件訴えはいずれも不適法な訴えであるから却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浦野雄幸 裁判官 杉原則彦 裁判官 岩倉広修)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例